マイナカードトラブル激増の原因は「デジタル庁の人材不足」と「河野太郎の不見識」【甲斐誠】
「デジタル国家戦略 失敗つづきの理由」集中連載【序】
■3代目デジタル相河野太郎氏が嘆いた「深刻な人材不足」
そう考えていた矢先、岸田文雄首相が2022年8月10日、8月下旬から9月下旬という大方の予想を裏切る形で、内閣改造を急きょ断行。河野太郎氏が3代目のデジタル相に就いた。自民党衆院議員の平将明氏や小倉將信氏も下馬評では候補者として名前が挙がっていたが、知名度の高い重量級議員をデジタル担当として据える人事に関係者からは驚きの声が上がった。防衛相や外務相など要職を歴任した河野氏に、創設から1年も経過していない小規模省庁のトップは釣り合わないとの見方もあるが、本人はデジタル庁での仕事に就任早々、強い意欲を示している。
2022年8月12日、河野氏は庁内で記者会見し「デジタル化するとこんなに世の中変わるんだっていうのが、国民に実感してもらえるのが一番大事」などと怪気炎を上げていた。
デジタル庁は2021年9月の発足以来、接種証明や入国手続き支援などいくつかのアプリを開発するなどしたが、いまだ大きな成果を挙げたとは言えない状況だ。
そういった状況を察してから、河野氏は「牧島大臣が種をまいて、水を与えて、肥料を与えてくれていますので、蕾になっているものが花咲くように、しっかり引き継いでいきたい」と語った。
発足から1年足らずで担当大臣が相次いで交代し、行政改革で辣腕を振るってきた大物与党議員が3代目に就任したデジタル庁。省庁と民間の垣根を越えて集まった官民人材が互いに協力し、日本のデジタル化を本当に進められるのかどうかは今後次第に思える。
先頭に立つ河野氏はここ数年、ハンコやファクスの廃止から再生可能エネルギーの導入まで幅広い分野で改革に携わり、一定の実績を上げてきた。ツイッターやメルマガを活用した情報発信力の高さでも知られ、デジタル改革を進展させると期待する向きもある。
ただ、政府はアプリやポイントなどを介して個人の行動に強く干渉する力を手にしつつある。国が基礎自治体である市区町村を飛び越え、デジタルツールを介して個人と直接やり取りするケースが今後増えるだろう。住民と直接対峙し、国の施策の直接の担い手となってきた自治体が一部の権能や役割を召し上げられる格好になり、2000年代に進んだ地方分権が縮退するなど、いわば「デジタル集権」が進む事態にもなり得る。
IT技術は、少数派による多数派の統治を容易にする面で集権化を招きやすい傾向がある。国民の声を聞き、自治体からの苦言をブロックすることなく受け止め、手にしたツールの力に振り回されることなく、デジタル庁が善用に向けた進路を切り開けるか、新体制での取り組みに期待されるところだ。
そこでまずこの一年を振り返ってみたい。日本のデジタル国家戦略はなぜ失敗つづきだったのか。数々のデジタル政策の舞台裏と、その失敗の理由を検証してみたいと思う。
デジタル庁という組織をクローズアップしていくことで、現在日本の組織の問題が如実に浮かび上がってくることに注目してもらいたい。
また、急展開するDX社会に私たちビジネスマンはどのように対応していけば良いのか。その指針も探っていけたらと思う。
電子書籍『デジタル国家戦略 失敗つづきの理由』の発売を記念して連載を開始したい。
(第1回へ つづく)
文:甲斐誠
<著者プロフィール>
甲斐 誠(かい・まこと)
行政ジャーナリスト。1980年生まれ。東京都出身。大手報道機関の記者として、IT技術から地域活性化まで幅広いテーマで20年近く取材、執筆活動に従事。中部・九州地方での勤務を経て、東京の中央省庁を長年取材してきた。ラジオ出演経験あり。主な執筆記事にITmediaビジネスオンライン「失敗続きの『地域活性化』に財務省がテコ入れ」や「周回遅れだった日本の『自転車ツーリズム』」など。国と地方自治体の情報システム改革に伴う統治構造の変容など社会のデジタル化に関する課題を継続的にウォッチし続けるほか、世界遺産や民俗など地域振興に関連する案件の調査も行っている。今回、デジタル庁をつぶさに取材し、そこで目撃した事実を検証しまとめた電子書籍『デジタル国家戦略 失敗つづきの理由』(KKベストセラーズ)を刊行。デジタル庁の実情を題材にしながらも、「日本の組織の現状と問題点」を炙り出した。
文:甲斐誠
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<内容>
■過去を振り返れば、日本のデジタル国家戦略は失敗の連続だった。高い目標を掲げながらも先送りや未達成を余儀なくされるケースが多かった。なぜ失敗つづきだったのか? どうすれば良かったのか? 政府主導のデジタル化戦略の現場を密着取材してきた記者がつぶさに見てきたものとは何だったのか? 一般のビジネスマンや生活者の視点もまじえながら、「失敗の理由」を赤裸々に描写する。
■そこには、日本の組織や人材の劣化があった。読者は他人事とは思えない「失敗する組織」の構造を目の当たりにするだろう。
■さらに、先進IT技術の導入による社会変革、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が急展開する中、われわれはどう適応し、どうやって無事に生き残っていくべきか? 「デジタル化失敗の理由」を20個厳選し、必須知識として本文中に詰め込んだ。
■セキュリティの厳しさから、DX推進の総本山であるはずのデジタル庁は、中央省庁の職員でさえ敷居が高く、全貌が見えにくい。急激に変貌する社会とわれわれはどう付き合っていけば良いのか? 本書ではデジタル庁とその周辺で今後起きる事態を予測しつつ、読者に役立つ知識を提供する。
<目次>
まえがき 日本のデジタル国家戦略は、なぜ失敗しつづけるのか
第一章 即席官庁
理由1■創設前夜
・時間365日
・地方でも都市並みを提言
・イット?
理由2■15番目の省庁
・人集め
・虎ノ門から紀尾井タワーへ
・幹部人事
理由3■デジタル庁始動
・新しい社会を
・リボルビングドア
・誓約書
・総裁選不出馬
第二章 監視社会
理由4■エルサルバドル仮想通貨大失敗のゆくえ
・ビットコインを法定通貨に
・ビットコインの街
理由5■GPS管理される社員こそ本物の社畜
・リモートワークで暴走する社員管理
・「部屋を見せて」
・ウェブ閲覧履歴はどこまで見られているのか
理由6■社内メールで懲戒になる例とは?
・東京都職員の例
・心理的安全性
・情報はどこまで守ってもらえるのか
第三章 未完のマイナンバー
理由7■マイナンバーと口座の紐付けをぶち上げた総務大臣の苦杯
・コストパフォーマンスが悪過ぎる
・口座紐付け
理由8■取った方が良いのか
・キャバ嬢のケース
・張り込み週刊誌記者の場合
理由9■始まりは「国民総背番号制」
・70年代に検討取りやめ
・多数の不正利用
・3度目の挑戦
理由10■マイナンバーの登場、そして利用範囲の拡大
・相次いだトラブル
・信頼なき社会
第四章 相次いで登場した政府開発アプリ
理由11■政府が推奨したCOCOA、失敗の原因
・不具合
・8・5倍に膨らんだ契約額
理由12■オリパラアプリ、思わぬ副産物
・アプリ一つに73億円
・転用、使い道広がる
・電子接種証明書を開発
第五章 システムとデータで日本統一
理由13■アマゾンを採用した日本政府
・政府調達で日本企業の参加なし
・システムトラブル
・外資にやられる日本
理由14■システム統一の野望
・17業務
・書かない窓口の普及
・自治体は国の端末になるのか
第六章 デジタル敗戦からデジタル統治への野望
理由15■敗北の実態
・本当に負けていたのか
・加古川方式
理由16■新たな統治構造
・役所から人が消える日
・デジタル庁が思い描く未来
・未来社会の到来を阻む障害とは
・ネオラッダイト
理由17■サイバー攻撃に耐えられるデジタル統治国家なんて幻想
・世界初の国家標的型サイバー攻撃
理由18■ウクライナvsロシアのサイバー戦争から何を学ぶか
・サイバー空間での攻防
・オンライン演説行脚
・対策は?
第七章 デジタル社会の海図
理由19■日本は大丈夫か
・日本のサイバーセキュリティの現状は?
・デジタル人材の育成は進むのか
・移民受け入れで「開国」要求
理由20■われわれは何を信じ、どこまで関わるべきなのか
・信用できるネット社会
・ベースレジストリに漏洩の恐れはないのか
・法令データ検索
・岸田政権が掲げたデジタル田園都市構想のゆくえ
あとがき デジタル管理社会は日本人を幸せにできるのか